――新人作品ピックアップ―――  《審査委員長》 斎藤 守

さて、今回の講評にあたって、小生の日頃考えていることも述べてみたいと思います。それは、「良い作品とは?」という問題です。これには、好き嫌いもありますし、見る人のレベルや立場によってもちがいがあります。これこそが正解だという定義は、はっきり言えません。
  そこで、小生が他人の作品を見るときや、自分の作品を反省してみるときに、留意している点を列挙してみたいと思います。あなたも、以下に挙げる項目について、自己採点してみてください。すべてが満点であるのは理想ですが、まだまだと思う点は補ってゆく努力をすることです。

【訴求力】見る人に感動を与える何かがあること。作者の表現しようとする意図が伝わって
       くるかどうか。単にいいな、すごいな、だいすき、おもしろい、などでも可。
【構成力】構図やフォルムが、美しい調和や秩序を保っていること。
【美しさ】色彩の対比や、配色の美しさ。形やマチエールの美、またはモノトーンの情感
      など。
【独自性】単なる描写だけでなく、その人独特の表現方式をもっていること。
【創造性】人まねでない着想、斬新な表現、ユニークな感性など。ただし新奇さを追求する
       と行き詰まることもある。途中で引き返すときに必要なのが基礎的技術力で
       ある。
【技術力】すぐれた描写力、デッサン力と、存在感のある表現力を持っていること。


● 岡田美也子 『海の見える部屋』
(奨励賞・会員に推薦 )

ジグソーパズルのような区切り線を全体にあしらった、新しい画風に挑戦している。昨年までの猫、楽器、 海というモチーフから、海を踏襲して作者らしい一貫性をもたせた。色彩やマチエールの美しさと、幻想的なフォルム、独自な表現方式を持ってきたことを評価する。新しい境地を開拓する努力をさらにつづけてもらいたい。

● 宮田和美 『面』

能面をはじめ、世界各地の面を並べている。一つひとつはしっかりと描けているが、素材のおもしろさに頼り切った感じである。何を訴えたいのか、それをどう表現するかをまず考えてもらいたい。面の大小に差をつけるとか、並べ方を工夫するとか、バックの処理を考えるとか、作品に手をつける前に、何枚もエスキースを試みるくらいの慎重さがほしい。バックの赤い線が単調さを破って成功しているといえよう。

●橋詰栄子  『早春の Grand Teton』

近景、中景、遠景を一望にとらえた俯瞰図をソツなく平明に描写している。平原の広さ、川の蛇行の面白さ、雪を頂いた山、近景の木立……、どこに感動したのかを、そこに目をひきつけるように表現すれば、さらに訴求力が増すと思う。

●小川富弘 『 電 ( でん ) 神 ( じん ) 』

53回展では『佃大橋下から見れば』、今回は電柱の上の複雑な配線という、ひとが気づかない視点からモチーフを切り取るセンスはなかなかのものである。メカニックなものを写実的に描写する技術は評価するが、隅から隅まで克明に描くだけではなく、注目点をしぼって強調するなど、工夫を加えてゆくのを今後の課題としてはどうか。


● 望月玲子 『あ、ヤットサー あ、ヤット、ヤット』

編み笠をかぶった女性が7〜8人、いかにもリズムを感じさせるように踊っている。わざと顔を省略し、手と足の表情にポイントを置いたところが効いている。昨年の『午後のコロッセウム』もよい構図だったが、今回、題材をガラリと変えても、これだけの表現ができる作者の力量を評価する。今後は何を描くか、楽しみである。


● 定木 ( じょうぎ ) 賢司 『MT 明日へ』

紙風船で行なうテニスであろうか。人物の描写は割合しっかりしている。ただし、バックの情景処理がそれに伴っていないのが惜しい。地面、ネット、後ろの緑…、もっと描き込むか、または人物本位にして別の場面に立たせるか、一歩戻って検討してはどうか。

 

●平賀一枝 『モーニングコール

電話で部員か泊り客を起こしている場面であろう。やや荒っぽいタッチは作者の持ち味として尊重したい。ただし、周りに二人の顔を配しているのは、情況を説明しているのだろうが、この描法にはそぐわない。意味の説明よりも、画面の美しさを追求してほしい。


● 近藤直子 『幸せを運ぶ忘れ物』

正面真ん中にあるのは、シンデレラのガラスの靴を意味したのであろう。左右の草花は、しっかり描けているが、ガラスの靴が主役ならもっと質感を描き込んでほしい。バックに吊るした飾りのようなものは、構図的には纏りを与えている。しかし、描きこみ過ぎてちょっとわずらわしい。単純化すればスッキリしたと思う。





●丸山和幸 『三様の視線』(新作家賞)

石膏像を三体ならべて置いてあり、それぞれの像の視線がマチマチなのが題名の由来と思う。真ん中の像にポイントを置いた構図は成功しており、ぐっと天空をにらんだ視線もいい。欲を言えば、色のない石膏像をいかに美しい色に描き現すかである。画面全体に色彩感が乏しいので、印象派風に陰影を色の組み合わせで置き換えるとか、バックに色彩的工夫をこらすとか、今後の課題として研究してほしい。


● 松尾和子 『ラインの辺り』(佳作賞)

スーパーレアリズムのような静物画を過去に発表してきた作者が、今回は一転して風景画に挑戦している。ここでも描写の冴えは認めるが、全体に印象が弱いのは、ポイントが定まらないせいであろう。いちばん印象的なのは、波の描写である。ここを注目点にすれば、左三分の一をカットしてみるのも一案だと思う。


●村上恵子『旅路はるかなものたち』(佳作賞・会友に推薦)

どこかの国の操り人形が3体。人形自体がそれぞれ面白い表現でつくられているが、それを表情豊かなポーズにして組み合わせたのは成功している。バックの色彩処理、下部の空間もいい。いままで風景主体だったモチーフを静物に変えたが、それでも良い水準を保っている。今後どんなテーマを展開するか、楽しみである。


●小泉国平 『不安』(佳作賞・会員に推薦)

中心に人物の顔、上から襲いかかる怪鳥の目に涙。周囲には怪獣やら人間やらが、 蠢 ( うごめ ) いている。真ん中の顔にむかって渦巻いているような流動感もいい。欲を言えば注目点になる人物の顔を、もっと描き込むか、表情を与えるか。また、全体にさらに美しい色調を追求してほしかった。

 

●牛山悦夫 『青い桜 ‘05』

昨年の作品には『全体に細かいタッチで描きすぎる』と苦言を呈したが、今年はそれを逆手にとって、見事な点描画法に脱皮した。青い色調に統一しながら色分解に置き換えた技術もしっかりしている。 100号に挑戦した努力もいい。点描をつづけるなら、テーマ、構図、フォルムなど、絵画が追求すべき目的にも留意して邁進してもらいたい。スーラや岡鹿之助のように独自の境地を築くことである。


●小林薫  『真夜中の室内』  

書斎の一隅であろうか。本棚に、電気スタンドそのほかが雑然と置かれている。それを真正面から丁寧に描写している努力は買いたい。ただし、画題からみると電気スタンドが主役で、しかも点灯している光線を表現したいらしい。そのためには光線以外のところを暗くする必要があるのではないか。この作品の《淡彩画法》では、光を表現するのに無理があるような気がする。透明水彩絵具でも濃い色を塗ることは可能である。怖がらずにもっと塗りこんではどうか。

●清水崇好 『夜光』  

上に挙げた小林薫氏と対照的なのが、この作品である。これはアクリル水彩だが、電気スタンドの笠の光と、その下を照らし出す雰囲気をよく表現している。できればもう一歩、ひとに訴える力がほしい。

●土尾京子  『コスモス』

コスモスの花と壺、敷物とも細密描写でなくサラリと描いているが、質感まで表現しているのは、みごとである。今後は、モチーフや構図、配色にも心を配って、この描写力を生かしてもらいたいものである。



●夷 ( えびす )  芳郎 『酒場』(佳作賞)

一見、プリミチーフなようだが、おもしろい素質を感じさせる作品である。線を主体として、それに色を塗りこんだ手法は、単純だがふしぎな情感を醸し出している。この味を生かしつつ、今後どう発展させるかを期待したい。