平成18年度以前の展覧会の作品の紹介


   昨年度(第55回展)の作品について


第55回流形美術展は、平成17年12月2日から12月9日まで、上野・東京都美術館において 催されました。
出品者総数161名、出品点数210点、会期中の入場者数は3587名でした。
文部科学大臣奨励賞は、立体/工芸部の福島慶冶さんが、流形美術会賞は星野正子さんが受賞されました。また、絵画部の第55回展記念賞は辻太郎さんが、立体/工芸部では今野満利子さんが,写真部では酒井實さんが受賞されました。

今回の特徴は、立体/工芸部を設けたことで、これまで絵画部で活躍していた2名に加え、新たに11名の応募があり、全員が受賞し、会員、会友に推挙されました。

会期中の12月7日には、例年通り上野グリーンパークにおいて表彰式パーティが行われ、日ごろ顔を合わせるこ との多くない会員同士も話が弾み、懇親を深める良い機会となりました。

 

           第55回流形展受付                        会場風景                     


 
              会場風景                         立体/工芸部会場       


 
             授賞式風景                            懇親会風景

                        
                  文部科学大臣奨励賞:福島 慶治「クロスオーバー」                    

                        

                       齋藤 守(相談役・審査委員長)「鬱」
            

 絵画部

絵画部の受賞作品は、今年は具象的傾向の作品が揃った。
第55回記念賞『八ヶ岳』は、200号の横に波打つ明快な色調の山や森の中に白樺の 幹や雪渓の短線がリズミカルに効いて力強い。 流形美術会賞の『光さす内』は、100号の画 面を大胆に二分し た棚の上のビン類が擬人化された人物の様でもあり、下半分の省略された椅子が人 間の動きを暗示していて静粛なフェルメールの感性にも似た空間を感じさせる。 S氏賞の 『刻』は、半具象の構成で窓の内外の軟らかく明るい情景で時の流れの部分を取り込めている。 東賞の『酒樽のある静物』は、温かく日常的な一隅勝ちから強い。 特賞の 木版画『幸あれ』は、大樹の力強さに明るい広場が清清しい力作であり、他の5点も微細な質感 表現のものから、フォーブ、シュールな構成やプリミティブなものと様々な独自の世界を描いている。

第55回展記念賞
「八ヶ岳」

辻太郎

 

 

 












流形美術会賞
「光射す内」
星野 正子


東賞
酒樽のある静物
岩谷 陽子

 

 

 

 

 

 

S氏賞

小松 恵子

特賞
矢島 道子
流転する小宇宙

 

 














幸あれ
藤川弘子

特賞
花の頃IV
田中 悟子

 

 



 

特賞
山里の秋
鮎沢 信子

特賞
祭り II
篠山 伸彌

 

 





 

 

 

特賞
越後つもる
佐藤 光司

 




 立体・工芸部

・立体/工芸部
今年から新設された始めての展示である。 創立メンバーは、それぞれ専門分野 でプロ、セミプロとして活躍している作家たちであるが、流形美術会の規約に則って一般応募の形でスタートしてもらった。その結果として、独創性と完成度の高い作品が集まり、絵画部と合わせての賞の内で、上位3賞を立体/工芸部の作品が独占するということになった。 平成19年度には会場面積が倍増するが、これらの優れた作品が見る人に感銘を与え、多くの人たちが応募者してくれるようになることを期待したい。

第55回展記念賞
昔から
今野 満利子

 

東京都知事賞
波動に舞う
伊藤 正義

 






東京新聞賞
望郷・・・いま
岡田 俊子

 


 

 

 


 作品の講評

「第55回流形展講評」   平成17年12月2日〜9日 東京都美術館

第55回展の授賞式で、特別審査員の 青木正夫先生 (武蔵野美術大学名誉教授)の講演がありました。 その要旨は「美術の世界は幅広く奥が深い。 みなさんも、今の自分の分野に限らず、それに関連する部門にも視野をひろげて、幅広い興味と知識を持っていただきたい」というものでした。
                           
                            (写真は青木先生)

 

――新人作品ピックアップ―――  《審査委員長》 斎藤 守

さて、今回の講評にあたって、小生の日頃考えていることも述べてみたいと思います。それは、「良い作品とは?」という問題です。これには、好き嫌いもありますし、見る人のレベルや立場によってもちがいがあります。これこそが正解だという定義は、はっきり言えません。
  そこで、小生が他人の作品を見るときや、自分の作品を反省してみるときに、留意している点を列挙してみたいと思います。あなたも、以下に挙げる項目について、自己採点してみてください。すべてが満点であるのは理想ですが、まだまだと思う点は補ってゆく努力をすることです。

【訴求力】見る人に感動を与える何かがあること。作者の表現しようとする意図が伝わって
       くるかどうか。単にいいな、すごいな、だいすき、おもしろい、などでも可。
【構成力】構図やフォルムが、美しい調和や秩序を保っていること。
【美しさ】色彩の対比や、配色の美しさ。形やマチエールの美、またはモノトーンの情感
      など。
【独自性】単なる描写だけでなく、その人独特の表現方式をもっていること。
【創造性】人まねでない着想、斬新な表現、ユニークな感性など。ただし新奇さを追求する
       と行き詰まることもある。途中で引き返すときに必要なのが基礎的技術力で
       ある。
【技術力】すぐれた描写力、デッサン力と、存在感のある表現力を持っていること。


● 岡田美也子 『海の見える部屋』
(奨励賞・会員に推薦 )

ジグソーパズルのような区切り線を全体にあしらった、新しい画風に挑戦している。昨年までの猫、楽器、 海というモチーフから、海を踏襲して作者らしい一貫性をもたせた。色彩やマチエールの美しさと、幻想的なフォルム、独自な表現方式を持ってきたことを評価する。新しい境地を開拓する努力をさらにつづけてもらいたい。

● 宮田和美 『面』

能面をはじめ、世界各地の面を並べている。一つひとつはしっかりと描けているが、素材のおもしろさに頼り切った感じである。何を訴えたいのか、それをどう表現するかをまず考えてもらいたい。面の大小に差をつけるとか、並べ方を工夫するとか、バックの処理を考えるとか、作品に手をつける前に、何枚もエスキースを試みるくらいの慎重さがほしい。バックの赤い線が単調さを破って成功しているといえよう。

●橋詰栄子  『早春の Grand Teton』

近景、中景、遠景を一望にとらえた俯瞰図をソツなく平明に描写している。平原の広さ、川の蛇行の面白さ、雪を頂いた山、近景の木立……、どこに感動したのかを、そこに目をひきつけるように表現すれば、さらに訴求力が増すと思う。

●小川富弘 『 電 ( でん ) 神 ( じん ) 』

53回展では『佃大橋下から見れば』、今回は電柱の上の複雑な配線という、ひとが気づかない視点からモチーフを切り取るセンスはなかなかのものである。メカニックなものを写実的に描写する技術は評価するが、隅から隅まで克明に描くだけではなく、注目点をしぼって強調するなど、工夫を加えてゆくのを今後の課題としてはどうか。


● 望月玲子 『あ、ヤットサー あ、ヤット、ヤット』

編み笠をかぶった女性が7〜8人、いかにもリズムを感じさせるように踊っている。わざと顔を省略し、手と足の表情にポイントを置いたところが効いている。昨年の『午後のコロッセウム』もよい構図だったが、今回、題材をガラリと変えても、これだけの表現ができる作者の力量を評価する。今後は何を描くか、楽しみである。


● 定木 ( じょうぎ ) 賢司 『MT 明日へ』

紙風船で行なうテニスであろうか。人物の描写は割合しっかりしている。ただし、バックの情景処理がそれに伴っていないのが惜しい。地面、ネット、後ろの緑…、もっと描き込むか、または人物本位にして別の場面に立たせるか、一歩戻って検討してはどうか。

 

●平賀一枝 『モーニングコール

電話で部員か泊り客を起こしている場面であろう。やや荒っぽいタッチは作者の持ち味として尊重したい。ただし、周りに二人の顔を配しているのは、情況を説明しているのだろうが、この描法にはそぐわない。意味の説明よりも、画面の美しさを追求してほしい。


● 近藤直子 『幸せを運ぶ忘れ物』

正面真ん中にあるのは、シンデレラのガラスの靴を意味したのであろう。左右の草花は、しっかり描けているが、ガラスの靴が主役ならもっと質感を描き込んでほしい。バックに吊るした飾りのようなものは、構図的には纏りを与えている。しかし、描きこみ過ぎてちょっとわずらわしい。単純化すればスッキリしたと思う。





●丸山和幸 『三様の視線』(新作家賞)

石膏像を三体ならべて置いてあり、それぞれの像の視線がマチマチなのが題名の由来と思う。真ん中の像にポイントを置いた構図は成功しており、ぐっと天空をにらんだ視線もいい。欲を言えば、色のない石膏像をいかに美しい色に描き現すかである。画面全体に色彩感が乏しいので、印象派風に陰影を色の組み合わせで置き換えるとか、バックに色彩的工夫をこらすとか、今後の課題として研究してほしい。


● 松尾和子 『ラインの辺り』(佳作賞)

スーパーレアリズムのような静物画を過去に発表してきた作者が、今回は一転して風景画に挑戦している。ここでも描写の冴えは認めるが、全体に印象が弱いのは、ポイントが定まらないせいであろう。いちばん印象的なのは、波の描写である。ここを注目点にすれば、左三分の一をカットしてみるのも一案だと思う。


●村上恵子『旅路はるかなものたち』(佳作賞・会友に推薦)

どこかの国の操り人形が3体。人形自体がそれぞれ面白い表現でつくられているが、それを表情豊かなポーズにして組み合わせたのは成功している。バックの色彩処理、下部の空間もいい。いままで風景主体だったモチーフを静物に変えたが、それでも良い水準を保っている。今後どんなテーマを展開するか、楽しみである。


●小泉国平 『不安』(佳作賞・会員に推薦)

中心に人物の顔、上から襲いかかる怪鳥の目に涙。周囲には怪獣やら人間やらが、 蠢 ( うごめ ) いている。真ん中の顔にむかって渦巻いているような流動感もいい。欲を言えば注目点になる人物の顔を、もっと描き込むか、表情を与えるか。また、全体にさらに美しい色調を追求してほしかった。

 

●牛山悦夫 『青い桜 ‘05』

昨年の作品には『全体に細かいタッチで描きすぎる』と苦言を呈したが、今年はそれを逆手にとって、見事な点描画法に脱皮した。青い色調に統一しながら色分解に置き換えた技術もしっかりしている。 100号に挑戦した努力もいい。点描をつづけるなら、テーマ、構図、フォルムなど、絵画が追求すべき目的にも留意して邁進してもらいたい。スーラや岡鹿之助のように独自の境地を築くことである。


●小林薫  『真夜中の室内』  

書斎の一隅であろうか。本棚に、電気スタンドそのほかが雑然と置かれている。それを真正面から丁寧に描写している努力は買いたい。ただし、画題からみると電気スタンドが主役で、しかも点灯している光線を表現したいらしい。そのためには光線以外のところを暗くする必要があるのではないか。この作品の《淡彩画法》では、光を表現するのに無理があるような気がする。透明水彩絵具でも濃い色を塗ることは可能である。怖がらずにもっと塗りこんではどうか。

●清水崇好 『夜光』  

上に挙げた小林薫氏と対照的なのが、この作品である。これはアクリル水彩だが、電気スタンドの笠の光と、その下を照らし出す雰囲気をよく表現している。できればもう一歩、ひとに訴える力がほしい。

●土尾京子  『コスモス』

コスモスの花と壺、敷物とも細密描写でなくサラリと描いているが、質感まで表現しているのは、みごとである。今後は、モチーフや構図、配色にも心を配って、この描写力を生かしてもらいたいものである。



●夷 ( えびす )  芳郎 『酒場』(佳作賞)

一見、プリミチーフなようだが、おもしろい素質を感じさせる作品である。線を主体として、それに色を塗りこんだ手法は、単純だがふしぎな情感を醸し出している。この味を生かしつつ、今後どう発展させるかを期待したい。

 

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